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ファシリテーションで特定の結論に誘導することはできるのか?
これは、たまにクライアントやファシリテーションスキル研修の受講者から聞かれる質問です。つま、会議の主催者には、持っていきたい結論が最初からあるが、参加者にはそれに気づかれないように、うまくファシリテーションスキルを使って、自然な形で、思い通りの結論に誘導できないか?ということです。
とてもスキルの高いファシリテーターがやれば、技術的には可能かも知れません。ただ、それは会議室の中の話であって、会議室を出た後に、参加者がその結論にきちんとコミットメントするかどうかはわかりません。
ファシリテーターが直接コミットできるのは、議論や対話の準備から、それが終わるまでの間ですが、そもそもなんらかの議論や対話を実施する目的は、会議室を出てからなんらかの成果を出すためです。ですから、会議の主催者は、会議が終わってから、参加者の最大のコミットメントを引き出すために何をすべきか?を考えなければなりません。
素直に説得できない理由とは何か?
私たちプロのファシリテーターがファシリテーションの依頼を受けるとき、ごく稀に、オーナー経営者や部門トップから、「ファシリテーションで特定の結論に導くことはでるのか?」ということを聞かれることがありますが、その時に私は決まって、「持って行きたい結論があるのであれば、なぜそれをメンバーに話して、指示するなり、説得するなりしないのですか?」と聞き返します。
リーダーが自分の方針を持ち、メンバーに「こうしてくれ」と説得するのはごく普通のことですし、一方的に命令するのではなく、メンバーが納得いくまで対話をするというのも、リーダーとしての良い姿勢です。
しかし、意図を隠して、特定の方向に誘導する、というのは、一見民主的なように見えて、まったく違います。たいていの場合、隠れた意図が透けて見えて、メンバーの不信感を生み出すだけです。
もし、真正面から説得することが難しいと感じるのであれば、それがなぜか?その原因についてふり返ってみた方がいいでしょう。リーダーシップやチームの関係性になんらかの問題がある可能性が高いです。
そんなとき私たちプロのファシリテーターは、まずはそこをどう改善するかをじっくりと議論することから始めます。正面から意図を表明したり、説得したりしづらくさせている理由を解決することが、ファシリテーションの目的に変化することもあります。
クライアントと依頼内容を確認する議論のファシリテーション
プロのファシリテーターにとって、会議やワークショップの現場で実践するファシリテーションよりも、クライアントと依頼の目的や期待値について議論する際のファシリテーションの方がむしろ重要と言えます。ここで方向性を誤ったり、方法論に先走ったりしてしまうと、現場のファシリテーションもうまくいきません。
そして、このファシリテーションにおける要件定義とも言えるフェーズでは、非常に高いファシリテーションスキルが求められます。
というのも、クライアントが何をゴールにめざしているのか?なぜファシリテーションなのか?ファシリテーターにどこまでを期待しているのか?自分でも整理できていないケースが多いからです。
「ファシリテーターに依頼をしたい」という欲求に結びついた、なんらかのインプットとしての問題はたしかにあるのですが、「あとはプロに頼めばなんとかしてくれるだろう」と、プロに依頼した時点で、丸投げモーになるケースも少なくありません。
ですから、依頼の背景の事実やそれに対しての思いなどをしっかりとヒアリングして、クライアントに気づきを与えるところからスタートしなければなりません。場合によっては、「解決法はファシリテーションではありません」という結論に達することもあります。
せっかくの依頼を受けながら、ファシリテーションの現場に臨むことなく終わることもあるのです。でも、ファシリテーションを必要とする人に、ファシリテーションによってなんらかの気づきを与え、適切な方向に導くことができたとしたら、それも最高のファシリテーションの一つなのです。
(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)