サンディエゴで開催されたファシリテーターの国際カンファレンスで、オリジナルのワークショップをファシリテーションしました

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2024年4月にアメリカ、サンディエゴで開催されたファシリテーターの国際カンファレンス、IAF Conference of Americasで、オリジナルのワークショップのファシリテーションを実施しましたので、レポートします。
IAF(The International Association of Facilitators)は、全世界で数千人のファシリテーターが会員になっているファシリテーターの国際的な団体で、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどの地域で毎年ショウケース的なカンファレンスを開催しています。

私、ナレッジサイン代表の吉岡英幸が、今回初めて、アメリカで開催されるカンファレンスに、ワークショップ・プレゼンターとして登壇しました。ワークショップは、同じく日本で活躍するグローバルファシリテーターの玄道優子(Yuko Gendo)さんとのコ・ファシリテーションで、The Art of Silence “Adapting Japanese wisdom to facilitation of tomorrow’s world” と題し、「沈黙」をテーマにしたワークショップとなっています。

Silence(沈黙)は、日本人がグローバルな環境でディスカッションするときに、顕著に発生する現象で、日本人がグローバルな舞台で活躍するうえでの弱みとされることが多いものです。
しかし、今回のワークショップでは、むしろSilence(沈黙)をポジティブなものととらえ、Silence(沈黙)が自己内省を促すだけでなく、Interactionをも促進するものであるというコンセプトを打ち出し、ファシリテーターとして、Silence(沈黙)をポジティブに生かす方法を学んでいただくことをねらいとしました。

※ワークショップの模様はこちらの動画でご覧になれます。

Silence(沈黙)を考察するプロセス

ワークショップの中で、Silence(沈黙)をとらえる際の重要な要素としたのが、「どのようなレンズでSilence(沈黙)を見るか?」 です。
たとえば、ファシリテーターの視点と、沈黙の当事者である参加者の視点で、Silence(沈黙)のとらえ方は違ってきます。

ファシリテーターの立場に立つと、「沈黙は盛り上がっていない証拠」、「沈黙はファシリテーションしにくくするやっかいなもの」という感覚になりがちですが、一方で、自分がなんらかの議論に参加者の立場で参加し、沈黙を体験することもあります。そんなときの感じ方は、ファシリテーターの立場としての感じ方と同じとは限りません。
ワークショップの参加者には、まず、ファシリテーターの視点、参加者の視点、という2つのレンズを通して、沈黙が起きたときに自分がどう感じるかをふり返ってもらい、気づきを得てもらいました。

また、それとは別のレンズでもSilence(沈黙)を考察します。それは、内向きのレンズと、その向きのレンズです。これは、自分自身に注意を向けるレンズと、自分の外側、場全体に注意を向けるレンズです。

本ワークショップを設計する段階で、Silence(沈黙)への考察を深めるために、日本で、何度か試験的なワークショップを行いました。
そこで得られた気づきとして、沈黙の間に、自分自身だけでなく、他の人や場の雰囲気全体など、外側に注意を向けている人が多いことがわかりました。
「今私が沈黙している間、他の人はどう感じているだろうか?」、「次に自分が発する言葉は、場全体にどういう影響を与えるだろうか?」といった意識です。
この、”場全体を意識する” というのは、日本人独特の感覚かも知れません。

そこで、私たちは、この感覚を、内向きのレンズ(Lens to look inside)を使うのか?外向きのレンズ(lens to look outside)を使うのか?という、レンズの使い方の違いであるととらえ、沈黙が起こった際に議論の参加者に起きることは、以下の図のように、最初に内向きのレンズ(Lens to look inside)が働き、やがて外向きのレンズ(lens to look outside)が働くという、時間経過に伴うレンズの切り替えである、という仮説を立てました。
そして、外向きのレンズが働くことで、より場に注意を向け、場に貢献しようとするInteraction(相互作用)の意識が働く、と考えました。

つまり、沈黙の時間が短いと、自己内省による創造性は深まるかも知れないが、Interaction(相互作用)にまで結びつかず、沈黙の時間を長くとることによって、参加者の場への貢献意識が高まり、Interaction(相互作用)の活発な場になる、という仮説です。
従来の「沈黙の時間は短ければ短い方がいい」という考え方とは真逆の考え方です。

この仮説のもと、ファシリテーターにとっての、もっとも好ましい沈黙の活用の仕方は、
・沈黙を受け入れる(場合によってはあえて沈黙を呼び起こす)
・沈黙で起こった参加者一人一人の場への意識をうまく生かす
という2点であると、参加者にサジェスチョンしました。

そこで、実際のワークショップでは、2分間ぐらいの長めの沈黙をあえて取り、その間に感じた、場への気づきを振りかえってもらい、その気づきをファシリテーターにどう生かして欲しいか?参加者の視点で考えてもらいました。

Silence(沈黙)をテーマにしたファシリテーター向けのワークショップの場合、ほとんどの場合、「いかに沈黙を早く破らせるか?」が目的になるのですが、今回のように「沈黙をどう生かすか?」という視点は意外性が高く、海外のファシリテーターに果たして受け入れられるのか?不安があったのですが、実際には、ワークショップへの参加希望者も多く、参加された方が皆、Silence(沈黙)の活用に前向きになっていただけました。

コ・ファシリテーションでの進行の工夫

ワークショップを実施していくうえで、考えなければならないことは、以下の大きく2つになります。
・どのようにワークショップの進行を設計するか?(準備)
・どのようにワークショップを進めていくか?(現場での実践)

今回は、2人のファシリテーターがコ・ファシリテーションして進行していきますので、いかに2人のファシリテーターがInteraction(相互作用)しながら、参加者にとっての価値を最大化するか?工夫のしどころでした。
そこで採用したのが、お芝居風の掛け合いの会話劇でワークショップを進行していく形式です。
もっともオーソドックスなコ・ファシリテーションのやり方は、前半はファシリテーターA、後半はファシリテーターBが進行するといった、リレー形式ですが、それだけでは、ファシリテーターの負担は減るものの、参加者にとっての価値が最大化するわけではありません。

そこで、玄道優子(Yuko Gendo)さんが、Silence(沈黙)を前向きにとらえ、沈黙に対する自分なりの理論をしっかり持っているファシリテーター、私が、沈黙に対して懐疑的に感じているファシリテーター、という風に、キャラクターを対照的にして、会話劇を演じることにしました。

私は、海外でコ・ファシリテーションする際は、このような形式をよく採用しているのですが、以下のようなベネフィットがあります。
1. ファシリテーターが均等な役割を担うことができる
2. 英語の口上をセリフとして自然に覚えられる
3. 参加者の疑問などをキャラクターに重ね合わせることで、マインドシフトを疑似体験できる

特に1番目のファシリテーターが均等な役割を担うことについては、今回とても意識したことです。設計の段階では、私と玄道優子(Yuko Gendo)さんが、まさしく対等に役割を担ってやったのですが、ワークショップの本番もそのコンビネーションを見せたいと思いました。特に男女のコンビの場合、男性が出過ぎた感じになるのは避けたいところです。
実際に今回のカンファレンスでは、私たちと似たようなプロフィールの男女のコンビがコ・ファシリテーションしているセッションに参加しましたが、あまりに男性が前面に出過ぎていて、ちょっと驚いたぐらいです。
また、英語のネイティブスピーカーではないファシリテーターが英語でワークショップを進行する場合、ワークのインストラクションやレクチャー部分の口上をしっかり作り込んで暗記することが多いのですが、同じ暗記するのでも、プレゼンテーションとして暗記するよりも、芝居のセリフとして暗記する方が、覚えやすく、また、相手のセリフがトリガーになって思い出しやすいのです。
さらに、一言一句暗記した通りにしゃべっても、芝居がかっているので、不自然さがありません。海外で英語でのワークショップをコ・ファシリテーション型でやる方には、この会話劇方式はお薦めです。

芝居のキャラクターづくりも重要です。今回は、あえて、沈黙肯定派と沈黙否定派にキャラクターを分け、沈黙否定派の私が、徐々に沈黙肯定派の玄道優子(Yuko Gendo)さんに触発されて、沈黙肯定派に変わっていく、というストーリーにしました。
このようなキャラクター設定は、特に今回のように、参加者にマイドシフトを促すようなワークショップに有効です。
つまり、前半の私の役割は、まさに参加者自信が抱いている疑念を代弁するようなもので、私のキャラクターが徐々に考え方を変化させていくことに自分を重ね合わせて、参加者はマインドシフトを自然と疑似体験するのです。言葉で「こう考えるべきですよ」と説得するよりもはるかに効果的です。

効果的な小道具の使い方

リアルなワークショップでは、フリップチャートやポストイットなどの記録用のツール、スライドの内容をフリップチャートに手描きしたビジュアルツールなど、さまざまな小道具が重要な役割を果たします。
ビジュアルツールは、参加者の理解を助けるだけでなく、そのディスプレイの仕方、演出の仕方によって、参加者のエンゲージメントを高める役割も果たします。
幸い、今回一緒にコ・ファシリテーターいただいた玄道優子(Yuko Gendo)さんが、ビジュアルツールを作ることを得意としていたので、さまざまなビシュアルディスプレイで、よりわかりやすく、より興味をかき立てるワークショップ演出ができました。

 


そして、エンゲージメントという点で今回大きなインパクトがあったのが、「えんたくん」という、段ボールでできた簡易テーブルです。
以下の写真のように、円形の段ボールを膝の上に乗せて使うという、簡単な仕組みのものですが、参加者に大好評で、「どうやったら手に入るのか?」とみんな問い合わせてくるほどでした。

ファシリテーションの場というのは、とても高機能のツールが効果を発揮することもありますが、このようなシンプルな小道具を使うことで、それ自体が会話を盛り上げる効果的なツールになり得ます。

 

“らしさ”を武器にグローバルプレゼンスを高める

私自身、日本でファシリテーションするのも、海外で、英語でファシリテーションするのも、基本的なスタンスは変わりません。もちろん、日本と比較した場合の文化的な違いもありますし、文化の違いをきちんとリスペクトした進行の仕方に配慮する必要はあります。
ただ、ファシリテーションのアプローチは、言語がどうか?参加者がどんな国の人か?ということよりもむしろ、テーマや参加者の職業的属性、組織文化など、その他のさまざまな要素によって変わるべきだと思っています。

今回、あえてSilence(沈黙)をネガティブではなく、ポジティブなものとしてとらえるワークショップに挑んだのは、グローバルな場で日本人が感じる「グローバルに合わせなきゃ」という意識に一石を投じるような意図がありました。

と言うのも、日本人は、どうしてもグローバルな舞台に立つと、「グローバルなスタイルに合わせなきゃ」というメンタリティが働き、自分たちが本来持っている強みや「らしさ」を否定してしまう傾向があるように感じており、私は、それこそがグローバルでプレゼンスを発揮するうえでの大きなネックであると思っています。

実際のところ、海外で外国人や日本人が混じった議論の場に参加すると、日本人のおとなしさ、沈黙の多さが目につくことがありますし、Silence(沈黙)は日本人の改善すべき問題点であると、上から目線で指摘する海外のファシリテーターもたくさんいます。
たしかに、英語ネイティブスピーカーのように、もっと積極的にSpeak Upした方が、メリットが多いし、ファシリテーターにとってもラクです。ただ、私は、Silence(沈黙)自体が問題であるとは思いません。

一方、最近では、マインドフルネスやZEN(禅)の考え方も海外では人気で、東洋の神秘的な精神性への敬意で、Silence(沈黙)を肯定されるのも、個人的に違和感があります。
もっと、ファシリテーションの論理的な観点でSilence(沈黙)の価値を考察し、新しい気づきを海外のファシリテーターに与えることで、日本人ファシリテーターがグローバルなプレゼンスを示すロールモデルになりたい、という個人的野心がありました。

ですから、海外のファシリテーターからすれば、「なぜ、Silence(沈黙)をポジティブに?」という、あえて文化的な固定観念にチャレンジするようなテーマでワークショップを行いました。
私たちのこのような目論見が、果たして受け入れられるだろうか?という不安で臨んだのですが、Silence(沈黙)を考察するロジック、ワークショップ進行のストーリー、ビジュアル含めたさまざまな演出、学びの成果など、ワークショップ参加者から高い評価をいただくことができました。

今回の経験は、今後海外で日本人ファシリテーターがプレゼンスを示すうえで、大きなヒントになったと感じます。

(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)

ワークショップを担当したファシリテーター

吉岡英幸 (Hideyuki Yoshioka) 株式会社ナレッジサイン 代表取締役

プロのファシリテーターとして、1,000件以上の議論の場をファシリテーションした経験を持つ。組織改革やマネジメント改革のファシリテーションや、企業の中期計画策定、IT戦略、人事制度設計のコンサルティング、ファシリテーションを数多く手がける。ファシリテーションや各種コミュニケーションの研修も開催し、ファシリテーションを活用したグローバル人材育成プログラムの開発にも積極的に関わる。
英語でのファシリテーション、グローバル人材育成に積極的に関わり、自ら海外とのさまざまなネットワークを開拓。日本の大手企業や外国企業が、国内外で開催するグローバルミーティングのファシリテーションを数多く手がけている。

■国際的なファシリテーター資格
IAF CPF(Certified™ Professional Facilitator)

Language: Japanese, English
Available: Japan, Singapore, Hong Kong, India,other areas in Asia, North America, Eu

言語:日本語、英語
対応可能地域:日本、香港、シンガポール、インド、他アジア、北米、欧州各地

玄道優子(Yuko Gendo) 対話支援ファシリテーター

「難しい対話を見えやすく、触れやすく。小さな声を掬いやすく」
プロのファシリテーターとして主に、市民対話の双方向の場づくり、企業でのワークショップや研修プログラムの設計、実施を行っており、グローバル企業の研修サポートも積極的に行っている。被爆3世のため、異文化の相互理解に特別な想いを持ち、2021年より国際ファシリテーターズ協会日本支部の理事。日本ならではのファシリテーションのリサーチや発信にも力を注いでいる。
共著に「Miro革命ーービジュアルコミュニケーションによる新しい共創のカタチ」

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