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当社が関わる英語でのファシリテーション、海外でのファシリテーションのケースでは、よく、海外のグループ会社に対して日本企業の方針や戦略を納得させるためのグローバルミーティングをファシリテーションしてもらえないか?あるいは傾向と対策的にファシリテーションの戦略を考えてもらえないか?という依頼を受けます。
その際に、
・目的は何か?
・今回のグローバルミーティングの背景は何か?
・ゴールは何か?
・ゴール達成に向けてもっとも困難だと予想していることは何か?
・ファシリテーターの力がどうしても必要なことは何か?
をまずはクライアントから聞き出します。
その結果、どうファシリテーションすべきか?の前に、クライアントとして必ずやっていただかなければならないことを納得いただくことが多くなります。
というのも、グローバルミーティングに臨む際の、日本企業特有の課題があるからです。
私は、2010年~2015年ごろにかけて、グローバル展開する日本企業が、基幹システム(主にSAP)のグローバル展開を試みるプロジェクトによく関わっていましたが、多くのケースで、担当者が、現地とのコミュニケーションの点で困難を抱えていました。
当時、ITリーダーたちがよく指摘していたのが、以下のようなことです。
「海外の子会社が言うことを聞かない」
「自分たちのやり方が一番正しいと思い込んでいて、譲らない」
「業務の標準化の価値をわかっていない」
「現場目線ばかりで、経営目線になっていない」
このような状況を、「優れたファシリテーションで解決したい」と考えるのですが、問題は、ファシリテーション以前のところにあり、それは、以下のような、多くの日本企業に共通する課題にあります。
・命令か相談か、ガバナンスの線引きが不明確
・あるべき論の論理的根拠が弱い
・責任ある立場の人間が決断できない
グローバルミーティングの会議主催者として、まずこの問題に正面から取り組み、きちんとした準備をして臨まなければ、いかに優れたファシリテーターを雇ってもうまくいきません。
では、どのように準備すべきか?をお話します。
「命令」、「説得」、「意見交換」の線引きを明確にする
まず、米国などが本社のグローバル企業が、海外の子会社に対して、本社が決めた標準システムの導入を指示する場合、これは明確に命令です。もし、子会社のトップが反対すれば、それが、100%子会社の場合、言うことを聞くトップに交代です。
日本企業の場合、立場上は命令できる立場であっても、そこまでドライにできず、限りなく「協力のお願い」的スタンスで、説得にかかろうとします。それ自体は悪くないと思いますが、命令とそうでないことの線引きが曖昧なので、海外の子会社が困惑してしまうのです。
たとえば、以下の図のように、英語文化圏の国では、命令か命令でないかの線引きをきちっと考える傾向があるのですが、日本の場合は、その辺がグレーゾーンなので、極端な場合、ほとんどが「好きなようにしていい」ととらえられてしまうのです。
日本本社からすると、なんとか協力して欲しいのに、「聞く耳を持ってくれない」という感覚です。
ここは、
・絶対に譲れないこと(命令)
・なんとか説得したいこと
・自由にしていいが、意見交換はしたいこと
にまず、線引きをきちんとしましょう。「絶対に譲れないこと」は、説明な丁寧は必用ですが、命令として、絶対に譲れないスタンスは明確にします。
次の「なんとか説得したいこと」が日本の場合、多くの領域を占めるのですが、この時に、最終的には命令として言うことを聞かせるのか、あるいは自由にさせてもいいのか、腹積もりを明確にしておくことが重要です。
「あるべき論」を捨てて、相手のベネフィットを明確にする
かと言って、そこを「命令」の領域にしてしまうのが苦手な日本人は、「こうあるべきだ」という、べき論で論理的な説得を試みようとします。
しかし、この際の「あるべき論」の論理的根拠が弱いのです。
たとえば、基幹システムの標準化でよく唱えられるベネフィットが、「経営の見える化」です。業務プロセスを標準化するだけでなく、製品や部品などのマスターを全世界で共通化して統合管理することで、世界規模での生産・販売・在庫の状況がリアルタイムで見られるというもの。
未だに「経営の見える化」が経営価値を生むと信じている日本の経営者が多いですが、見える化するだけでは何の価値もありません。見える化した後に、なんらかの効果的なアクションが打たれて、初めて価値があるのです。
たとえば、海外の子会社に行って、日本本社のIT担当が
「基幹システムの標準化やマスターの統合は、経営の見える化という価値をもたらすのです」と説明したとして、海外子会社のIT担当から、
「見える化したあとに経営者が具体的にどんなアクションを、どれぐらいのスピード感で、どれぐらいの頻度で行い、それによる経営インパクトはどれぐらいなのか?」
と問われると、答えられる日本本社の人間はいません。おそらく経営者も答えられないでしょう。
それでは、
「価値がはっきりしないことに協力はできない」
となります。
この点の対策は、ズバリ、「あるべき論」を捨てることです。海外の子会社の現場にとって具体的なベネフィットは何なのか?どれぐらいの頻度やレベルでそのベネフィットを享受できるのか?を明確にしましょう。
時々、「ERPのようなシステムは経営のためのシステムであって現場のためのシステムではない」という考え方の人を見かけますが、それは間違いです。本当に経営的な価値があるものであれば、現場に必ずベネフィットがあるはずです。それが説明できなければ、経営的にも価値はないのです。
想定される大胆な意思決定を準備しておく
基幹システムのグローバル展開に伴う、海外行脚では、普段出張嫌いなIT部長も乗り気で海外子会社に訪問するのですが、責任者が陪席しているにも関わらず、部長が決めるべき意思決定をその場で行えないのが問題です。
日本の会社システムとして、多くの意思決定事項が経営会議という合議制で決められ、IT部長の一存で決められることは少ないという事情もありますが、概して日本の部長層は、自分が決められることであっても、時間をかけないと決められない、その場で迅速に意思決定する勇気を持たないことが多いようです。
これも、責任領域が明確にされている海外子会社からすると、フラストレーションになる要素です。
ない権限をふるうことはできないですし、いきなり意思決定力を持つことも難しいでしょう。ここでは、意思決定が必要であろうことを事前に想定し、しかるべき根回しもして、あらかじめ「ここまでは許容する」などと、意思決定をすませておき、意思決定の腹案を持って臨むのです。
とりあえず現地の話を聞いて、持ち帰って検討するという領域は可能な限りなしにしましょう。
準備と覚悟を持ってグローバルミーティングに臨む
ファシリテーターは、目的やゴール、背景に沿って最適なミーティングのプロセスを考え、そのプロセスを円滑に進行していくことはできますが、これまで述べたように、会議主催者の準備、あるいは覚悟というものが、多国籍チームのグローバルミーティングには必要です。
海外で開催するグローバルミーティングのファシリテーションの案件では、実際には、現地へ出かける前に、クライアントと、この準備・覚悟について確認する、クライアントへのファシリテーションが一番重要なウェイトを占めています。
場合によっては、アジェンダ設計の支援だけして、現地にはクライアントだけで臨んでいただく場合もあります。
それだけ、準備と覚悟が重要であるということを認識いただければと思います。
(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)