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当社では、世界展開する企業が世界共通で実施する研修プログラムを、日本で実施する仕事を承ることがよくあります。たとえばイギリス本社の企業が全世界の拠点のリーダー層に対して、同じリーダーシップの教育プログラムを展開していく過程で、日本法人のリーダーに対して、日本語あるいは英語でそのプログラムを、ファシリテーターとして実施するというものです。
この場合、オリジナルの研修プログラムの内容を当社が理解し、当社単独でデリバリーできるように実施手順を学習するというプロセスが、研修デリバリーの前に発生します。
また、オリジナルの研修を日本の環境に合わせてローカライズしたり、研修資料を日本語に翻訳したりする場合もあります。
この場合のローカライズや翻訳が、品質を担保するうえで重要な点になります。いかに優れたオリジナルプログラムがあっても、ローカライズや翻訳が適切でないと、研修の品質を大きく損なうことになるからです。
ここでは、そのようなローカライズ、翻訳の作業に当社がどのように関わっているのかをご紹介します。
ローカライズ、翻訳のいくつかのパターン
まず、グローバルロールアウトプログラムのローカルデリバリーには、いくつかのパターンあります。
・基本的に英語で作られたオリジナルプログラムを日本語で実施する
・基本的に英語で作られたオリジナルプログラムを英語のまま実施する
御社で請けるローカルデリバリーは、基本的には前者で、日本語で実施することがほとんどですが、英語で実施をすることもあります。また日本語で実施する場合でも、外資系企業の場合、外国人従業員の参加者も多く、100%日本語ではなく、ときおり英語を混ぜて実施することもあります。
また、研修資料についても
・英語の資料のまま使用する
・日本語資料のまま資料する
の2パターンがあります。どちらかというと、前者の、英語の資料のまま使用することが多いのですが、講師が日本語で進行する場合、実質的には英語の資料を口頭で翻訳する形になります。英語のままだと難しい場合には、日本語に翻訳することになりますが、当社では研修資料の日本語翻訳も承っています。
次にプログラム内容そのものについては、
・世界共通プログラムとまったく同じものを提供する
・世界共通プログラムを、ある程度日本の環境に合うようにローカライズする
という2パターンがあります。基本的には世界共通のプログラムをそのまま使ってください、とういう要望がほとんどですが、結果的には、ある程度日本向けにローカライズすることが多くなります。
というのも、日本と海外とのビジネス習慣の違いが大きいため、オリジナルプログラムのままでは違和感があったり、意味がうまく伝わらなかったりして、せっかくのオリジナルプログラムの価値が伝わらなくなってしまうことがあるからです。
そのため、ローカルデリバリーの品質に責任を持つ立場としては、オリジナルコンテンツの開発者とローカルサイトの双方に納得いただけるように、日本のビジネス風土に合わせたローカライズをすることが多くなります。
ローカライズは、地域の市場性や文化についての詳しい知識と研修プログラムデザインの高い技術が必要
この場合のローカライズですが、一番多いのは、ケースの差し替えです。そこで紹介されている企業事例などが日本になじみのない場合、日本の同様な企業事例に置き換えることがあります。
また、理論や方法論については、リーダーシップなどのように世界共通の概念のあるものは、比較的ローカライズの領域は少ないのですが、営業スキルのトレーニングなどになると、ビジネス慣習の違いが内容に大きく影響するため、そこで紹介されている理論や方法論を、日本のビジネス慣習に合わせて少し修正したりします。
このローカライズの匙加減は難しいもので、オリジナルプログラムの本質的な目的や価値を維持したまま、受講者にとって受け入れやすいような形に修正してかなければなりませんので、当該業界についての知識やさまざまな技術・経験が必要になります。また、オリジナルコンテンツの開発者とローカルサイトの双方を納得させるファシリテーションスキルも重要で、ローカライゼーション自体がファシリテーションの大きなチャレンジになるのです。
ナレッジサインは、研修開発元の目的や意向をきちんと把握し、また、ローカル側の事情も理解したうえで、最適なローカライズ方法を提案しています。
研修資料の翻訳ノウハウ
英語で記述された研修資料を翻訳する場合、翻訳専門の事業者が翻訳する方がいいのか?研修をデリバリーする講師が翻訳する方がいいのか?
私は後者と考えます。たとえ翻訳専門の方が翻訳したとしても、研修講師の監修が必要になるでしょう。
なぜなら、研修資料を翻訳する際に何が適切か?の判断は、実際に研修を進行するうえで、どのような表現に置き換えた方が、受講者にとってわかりやすいか?受け入れやすいか?が判断基準になるからです。
たとえば、
We have to encourage the customers to change the status quo.
という表現があったとします。これを一般的な日本語に翻訳すると、「私たちは、顧客が現状を変えることを促さなければなりません」といった表現になるかと思いますが、営業スキルトレーニングとして、研修資料のこの文脈の前後も考慮に入れると、
「私たちがめざす営業スタイルは、顧客が現状維持から一歩踏み出すことを支援することです」
と表現した方が適切な場合があります。
要は、そのパートでどのようなことを受講者に理解してもらいたいのか?どのようなメッセージに響いてもらいたいのか?研修の現場に立つ者の目線で考え、適切な表現に置き替えないといけないのです。
また、研修資料では、さまざまな名詞が出てきます。一般的な普通名詞もあれば、固有名詞もありますが、研修資料で顕著なのは、普通名詞を、その研修独自の意味合いで固有名詞的に使っているもの、あるいはまったく新しい造語が多いことです。これらが、なんの事前説明もなく、唐突に出てくることが多いのです。よく、日本はハイコンテクストカルチャー、英語圏はローコンテクストカルチャーと言いますが、英語圏の研修資料については、著しくハイコンテクストで作られていることが多いと感じます。
日本の研修資料では、「これは造語ですよ」と断って出てくるような用語でも、まるで普通名詞であるかのように、いきなり作者自身の造語が飛び出してくることが多くあります。これは、英語圏での研修では、わからない場合すぐに聞く、というローコンテククスト型のコミュニケーションが根付いているため、逆に事前の説明は省いて、質問があれば説明して理解してもらおうというスタイルを取っているからのようです。
このような名詞をどう訳すか?なのですが、名詞の翻訳の仕方には2通りあります。
・意味が通りやすいように、意味のある言葉に置き換える
・あくまで記号として扱って、翻訳せずそのまま使用する
日本人は、意味のある漢字を組み合わせて言葉を作る漢字文化に慣れ親しんでいるため、英語の名詞を翻訳するときに、できるだけ意味のある日本語に置き換えようと考えます。一方で、何にでも正解があるという考え方が根強いので、新しい概念として一般化しつつある外来語については、正解の意味を当てようと考える傾向にあります。
たとえば、 営業のスタイルとして、
Challenger sales
という言葉が出て来た場合、直訳すると、「挑戦的な営業」、「挑戦者の営業」という言葉になり、しっくりときません。一方、Challenger salesという概念が、新しい言葉として少しずつ広まっていますが、何を持って正解の意味とするか明確ではありません。
実は、日本で一般化している外来語表現も、使う人や文脈によって随分と意味合いが違うものなのです。研修プログラムでも同じで、よく聞きなれた言葉であっても、その研修プログラムに独自の意味合いを当てていることが少なくありません。
ですから、あえて翻訳せずに、“Challenger sales”と言う言葉を記号として使い、「この研修においては、”Challenger sales”とは以下に述べる3つの条件を満たすものと定義します。」という風に、この研修における決まり事であるという説明を最初にして、そこから先は、”Challenger sales”と言う言葉を記号として使うという方法を取ることもあります。
このように、翻訳作業において、どのパートは忠実に翻訳するか?どのパートは意味が通じるように意訳するか?また、その場合、どのような表現を使うか?ということを、現場の進行をイメージしながら翻訳していかなければなりませんので、研修資料の翻訳作業というのは、非常に労力のかかる作業となります。
ですから、グローバルでロールアウトする研修のローカルデリバリーをローカルの事業者にを委託する場合、ローカルの事情に合わせて、どのように研修コンテンツを取り扱うべきか、しっかりとした提案のできるパートナーを選ぶべきであると思います。
(文責:株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)